ぷくぷく標本とは、主に甲虫の幼虫を膨らんだ状態のまま乾燥させて作られた標本のこと。考案者は石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平氏(下記の文献で発表されている)。重要なポイントは、乾燥過程で虫体が潰れたり縮んだりするのを防ぐための処理。
文献(Web上で閲覧可能)
渡部晃平, 2019. コウチュウ目幼虫における乾燥標本の作製方法. さやばねニューシリーズ, (34): 14-18.
面白そうだと思いつつもずっと試す機会がないままだったが、先日初めてやってみた。
材料はマイマイカブリの幼虫。今年の夏に奥多摩で採集してきて飼育していたが、残念ながら途中で死んでしまったもの。
前処理で使うのは「手間なしブライト」という衣類用漂白剤。文献によれば「他のものを使った場合に同じ成果が得られるかは不明」ということなので、購入すべく薬局へ。しかし、この製品はどこにも見つからない。調べてみると、すでに製造終了となっていた。
仕方ないので、代替品を選ぶことに。文献には「手間なしブライト」の漂白剤としての種類(酸素系、塩素系など)や主成分は書かれてない(市販品は製造終了や企業の倒産などで入手できなくなることもありえるので、代替品選定のための情報は必要だと思う)。
手間なしブライトの製品情報(モノタロウより)
幸い、まだ製品の情報がネットに載っていたので、成分は若干異なるものの同じ酸素系漂白剤であるワイドハイターEXパワー(花王)を使ってみることにした。
高濃度エタノールで脱水後、ガラス瓶にワイドハイターを入れ、幼虫を漬ける。そのまま室温で保管する。
2時間後の様子。泡と虫のエキスが出て、縮んでいた節間が伸びている。
24時間後の様子。きれいに伸びて、膨らんでいて、感激。
水気を拭き取り、展足。そして、乾熱乾燥機へ。
乾燥機に入れて24時間後の様子。腹部は少し縮み、胸部は左右から潰れてしまった。急速に乾燥させたのが良くなかったか。
文献に書かれていた救済方法に従い、再びワイドハイターに漬け込む。
再び、うまく膨らんだ。ただ、色がやや薄くなった印象。今度は冷凍庫に入れて凍結乾燥。
1ヶ月半後、冷凍庫から取り出す。今度は潰れていない。普通の乾燥棚に移してさらに1ヶ月ほど乾燥させても形状変化は見られなかったので、とりあえず成功と言えるだろう。
追記
ワイドハイターEXパワーの情報