東京昆虫館のブログ

日々の昆虫関係の出来事を綴っています

幼虫の食欲

飼育容器のリセットから1ヵ月弱、マットの中には多数の幼虫がうごめくようになった。与えた餌もすぐになくなる。その様子を撮影してみた。

 

1月9日 21時

米ぬかを山盛りにしてみた。

同上 

上から見るとこんな感じ。

 

1月10日 21時

朝の時点ですでに山はなくなっていた(出勤前に撮影を失念し、帰宅後に撮影)。

 

同上

上から見た様子。まだ米ぬかは少し残っているのがわかる。この下はどうなっているのか、少し掘ってみた。

 

意外なことに、米ぬかがたくさん出てきた。どうやら、米ぬかの山は食べ尽くされたわけではなく、食べられたのは半分程度で残りは幼虫の活動によってマットの中に沈んでいるようだ。

今まではこれに気づかずにせっせと米ぬかを足していて、コナダニの温床になっていたのかもしれない。今後、気を付けることにしよう。

長期飼育記録の更新を目指して

長期飼育記録の更新を目指し、12月に羽化脱出してきたヤマトオサムシダマシ5♂2♀を新しい飼育容器へ移した。そこに敷くものは黒土ではなく昆虫マット。

今日(2025年1月1日)を飼育開始日とすると、記録更新は2028年9月末の予定。それまで生きる個体は果たしているのか、楽しみ。

クリバネアザミウマ

ベランダで栽培しているフダンソウ(スイスチャード)に今年もアザミウマが発生している。

葉の裏には白い食痕がたくさん。

幼虫の姿も多数見られる。

クリバネアザミウマ幼虫

コンデジではこれが限界。

クリバネアザミウマ成虫

こちらは一眼で撮影。

外観に特徴があるようで、専門家が見ればこの写真でも種が同定できてしまうらしい(プレパラート標本を作りつつ、先に生体写真を送ったらすぐに種名を教えていただいた)。

 

寄生された葉はやがて弱って枯れてしまうが、冬の間は虫の成長が遅いので、枯れる前に新しい葉が展開していくので大した問題ではない。一方、暖かくなって虫の成長が速くなると葉の展開が追い付かなくなり、株自体が弱る。ただし、その頃にはネギアザミウマの方が優占するようになり、クリバネはいつの間にか姿を消していく。

蛹化時の大量死

晩秋に蛹化容器に移した幼虫(野外採集個体の孫世代にあたる)が先週から羽化してきている。蛹化容器は前回と同じ → 蛹化容器へ移動(2回目) - 東京昆虫館のブログ

 

12月23日撮影。5頭いて、そのうち2頭は羽化不全。

12月24日撮影。3頭増えた。昨日は生きていた羽化不全の1頭はすでに死んでいる。

12月28日現在、容器の底にはまだ蛹もいる。

順調のように見えるが、実は大きな問題が起きている。前回と異なり、今回は前蛹での死亡率がとても高い。蛹室を作った後、体全体が不自然に伸びきった状態になったり、白いカビが生えたりして死んでしまう。

前回と違うのは、土も容器も使い回しであるということ。思い返すと、同様な幼虫の大量死亡例は以前の飼育でもみられており、蛹室を作っている途中から幼虫が次々とやられて全滅したことがあった。

過去事例との共通点は、土を使い回したこと。土は市販の熱処理されたものを使っているので、1回目は問題なくとも、2回目の使用では何らかの菌が土中で増えていて、それにやられている可能性が考えられる。

そうだとすると、これはヤマトオサムシダマシの生息場所が限られる原因のひとつかもしれない。つまり、乾燥しているほど菌は繁殖しにくいが、幼虫が蛹室を形成するにはある程度の土の湿度が必要であり、その折り合いがつく微環境というのが、湿潤な日本ではとても限られるのではないか。(想像の域を出ない話ではあるが)

ということで、来年は土を新品にして、容器も消毒(熱湯かキッチンハイターか)をしてみることにしよう。

Longhornbeetle fauna in Takao

菊地真郷, 2024. Longhornbeetle fauna in Takao. 31 pp. 個人出版, [東京].

Amazonの販売ページ

東京の高尾山とその周辺地域のカミキリムシを目録としてまとめた書籍が今年12月に出版された。高尾山のカミキリムシ目録といえば藤田(1988)の「東京都高尾山のカミキリムシ」が有名だが、多くの虫屋が訪れる有名採集地であるがゆえなのか、意外にもこの後にまとめる人がいなかったもの。

 

目録には198種が掲載。文献記録は採集年月日が明確なもののみが採用され、年代別に整理。採用基準を満たさない文献記録がある種は疑問種として整理され、13種が紹介されている。他、過去に記録されたが誤同定として削除された2種にも言及されている。

 

著者自身も2021年からの4年間の調査で162種を採集しており、その採集データ(1種1例のみ)と標本写真が示されている。虫屋として活動を始めたのは2021年だそうで、わずか4年でこれだけの種数を自己採集したことは驚きだ。筆者自身の採集個体の他に、著者に寄贈された標本もデータと写真が示されている。

 

この書籍による高尾初記録は次のとおり(括弧書き以外は著者採集)。

ケブカヒラタカミキリ(寄贈標本)、マルクビケマダラカミキリ、クロサワヒメコバネカミキリ、オオアオカミキリ、アカアシオオアオカミキリ、トウキョウトラカミキリ(寄贈標本)、カノコサビカミキリ、イワサキケブカカミキリ

 

目録の他、高尾周辺の環境が写真とともに紹介されている。

 

なお、現時点で販売されている第2版には奥付がない(Facebookで指摘を受けるまで気づかなかった)。その対応として、販売ページに著者の連絡先が掲載されており、連絡するとpdfで送ってもらえる。さきほど印刷して貼り付けた。第3版には奥付が追加されることになっているという。

 

著者とは2022年11月に知り合い、最初は採集方法の照会に回答したり、採集報告をする程度だった。やがて、目録として世に出したいという著者の強い希望を受け、「奥多摩カミキリ目録2020年版」の経験などを基に本格的に関わるようになった。

実は、著者には一度もお会いしたことがなく、電話でも1回話しただけ。年の差のある若手虫屋に対してどのようにアドバイスすべきか常に迷いつつも、「基本的に私からのコメントはひとつの意見や提案であり、最終的には著者自身が判断して、納得できるものを採用すれば良い。あなた自身の本なのだから。」というスタンスを貫いたつもり。著者にとって、図書館での文献収集、膨大なデータ整理、細部にわたる校正結果の反映などは、どれもおそらく初めての経験であり、かなり大変だったと思う。それでも、指摘を真摯に受け止めて、推敲や修正も労を厭わず取り組んだことで、こうして出版に至った。この書籍に関わることができて、本当に良かったと思っている。

ぷくぷく標本に挑戦

ぷくぷく標本とは、主に甲虫の幼虫を膨らんだ状態のまま乾燥させて作られた標本のこと。考案者は石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平氏(下記の文献で発表されている)。重要なポイントは、乾燥過程で虫体が潰れたり縮んだりするのを防ぐための処理。

文献(Web上で閲覧可能)
渡部晃平, 2019. コウチュウ目幼虫における乾燥標本の作製方法. さやばねニューシリーズ, (34): 14-18.

 

面白そうだと思いつつもずっと試す機会がないままだったが、先日初めてやってみた。

材料はマイマイカブリの幼虫。今年の夏に奥多摩で採集してきて飼育していたが、残念ながら途中で死んでしまったもの。

前処理で使うのは「手間なしブライト」という衣類用漂白剤。文献によれば「他のものを使った場合に同じ成果が得られるかは不明」ということなので、購入すべく薬局へ。しかし、この製品はどこにも見つからない。調べてみると、すでに製造終了となっていた。

仕方ないので、代替品を選ぶことに。文献には「手間なしブライト」の漂白剤としての種類(酸素系、塩素系など)や主成分は書かれてない(市販品は製造終了や企業の倒産などで入手できなくなることもありえるので、代替品選定のための情報は必要だと思う)。

手間なしブライトの製品情報(モノタロウより)


幸い、まだ製品の情報がネットに載っていたので、成分は若干異なるものの同じ酸素系漂白剤であるワイドハイターEXパワー(花王)を使ってみることにした。

高濃度エタノールで脱水後、ガラス瓶にワイドハイターを入れ、幼虫を漬ける。そのまま室温で保管する。

 

2時間後の様子。泡と虫のエキスが出て、縮んでいた節間が伸びている。

 

24時間後の様子。きれいに伸びて、膨らんでいて、感激。

 

水気を拭き取り、展足。そして、乾熱乾燥機へ。

 

乾燥機に入れて24時間後の様子。腹部は少し縮み、胸部は左右から潰れてしまった。急速に乾燥させたのが良くなかったか。

文献に書かれていた救済方法に従い、再びワイドハイターに漬け込む。

 

再び、うまく膨らんだ。ただ、色がやや薄くなった印象。今度は冷凍庫に入れて凍結乾燥。

1ヶ月半後、冷凍庫から取り出す。今度は潰れていない。普通の乾燥棚に移してさらに1ヶ月ほど乾燥させても形状変化は見られなかったので、とりあえず成功と言えるだろう。

 

追記

ワイドハイターEXパワーの情報

飼育容器リセット

最近またコナダニが増えてきたので、飼育容器をリセット。今回は久しぶりにカブクワ飼育用のマットにしてみた。黒土よりもマットの方が若齢幼虫が育ちやすい印象。

容器内に散らばっているのはスダジイの実。人間用(食用)に集めたもののうち、傷んだり虫食いのものを与えたもの。

 

明るいうちは竹の隠れ家に密集している。1頭が持ち込んだスダジイの実を数頭が争っているようだった。